神尾陽子クリニックの院長である、神尾陽子先生に、「知的障害(知的発達症)」に関してお伺いしました。
神尾先生、今日は貴重なお時間をいただきありがとうございます!
まずは、先生のクリニックからご紹介いただいてもよろしいでしょうか。
はい、私たちのクリニックは、小さいおこさんから、上はシルバーまで、年齢に関係なく発達面を中心としたメンタルヘルスを包括的にアセスメントをして、必要な支援や方向性についてご提案させていただいています。また、継続して治療も行っております。
ありがとうございます!大変心強いクリニックですね!早速ですが、質問をさせていただきます。お時間の関係で3つ質問をさせてください。
1. 知的障害とはどのように定めますか?
2. 自閉症スペクトラム症(ASD)は、必ず知的障害なのでしょうか?
3. 知的障害は改善しないのか、もしくは改善するとするのであれば、どんな方法がありますか?
まず最初に、知的障害とはどのように定めますか?
ひとつは、知的な発達がどの程度かを、標準的な知能検査で調べます。知的な遅れがある場合には、その程度、つまり軽度、中等度、重度によって、支援の方法や内容が変わってきますので、その区分のめやすの一つにIQを使いますが、IQの数値だけで区分するわけではありません。
一番新しい世界的な診断基準の米国のDSM-5や、WHOのICD-11もどちらも、診断名に「発達」という言葉が入りました。DSM-5の診断名の邦訳は知的発達症に代わりました。
どちらも強調しているのは、IQによって区分されるというという以前の記載は完全に撤廃されました。
※1 DSM-5:アメリカ精神医学会が発行する分類および診断ツールである『精神障害の診断と統計マニュアル』の2013 年の最新版です。
※2 ICD-11:世界保健機関(World Health Organization, WHO)が作成する国際的に統一した基準で定められた死因及び疾病の分類
なるほど。
じゃあ、IQだけでなくて何を基準に知的発達症と診断するかというと適応機能なんですね。
適応機能というのは、生活面・実用的な身辺自立や、社会的な自立、概念的な側面など、毎日の生活全般に関係します。その適応機能が期待される水準より低いことが確認されて初めて、診断がなされます。どの領域で適応がどのくらいの水準かということは、どのような支援がどの程度必要かを示す重要な情報です。IQが低くても適応機能が良い方もいらっしゃいます。
同じIQでも支援が要る場合は診断がなされ、支援への道が開けるということです。
このように知能(IQ)検査だけで決まるということではないです。
やはりそうなんですね!勉強になります!
次に2つ目の質問です。
「自閉症スペクトラム症(ASD)は、必ず知的障害なのでしょうか?」
それは全くそうではなくて。そうですね、自閉症スペクトラム症(ASD)の診断がつく人のうち、知的障害がある人は、おそらく「半分もいない」というところです。
知的な問題と自閉症スペクトラム症(ASD)の独特な特性っていうのは、一応、別の種類なんですね。両方持っている方もいれば、どちらかだけという方もいます。でも両方あると、自閉症的症状はものすごくはっきりしてきます。そうなると、もちろん手厚い支援はより必要になる、とはいえます。
ありがとうございます。保護者の方で、「自閉症スペクトラム症(ASD)=知的障害」と考える方も多いようなので、大変参考になる貴重な情報だと思います。ありがとうございます。
それでは最後の3つ目の質問です。
「知的障害は改善しないのか、もしくは改善するとするのであれば、どんな方法があるのか?」です。先生たちはどのようにお考えなのかを伺ってもよろしいでしょうか?
はい。知的障害、知的発達症は、「IQで示されるような知的発達が年齢相当より遅れている」「適応機能が年齢相応より低い」という両方を持っていて、診断に際しては、より適応機能を重視する、とお話しました。知的な遅れ、知能検査は世界中標準としてありますが、やはり幼児は検査そのものを受けるということが、まだの方もいるので、数値をどこまで信頼できるのかは、慎重に解釈する必要があります。ただ、しっかり取り組めたとすれば、IQだけではなく、プロフィールの得意とか、苦手とか、その方の知的構造の特徴みたいなものに注目することが重要です。得意・不得意のパターンは比較的成長を通してあまり変わらないということは言えますので、知能検査は信頼のおける指標であることは、間違いないです。
ただ適応機能の方は、評価するのはたくさんの情報をもとに判断する必要があり、一つの検査でわかるというわけではありませんし、変化もします。
療育の究極の目的、目標はIQを上げることではなく、適応機能を向上させることにあると言えます。適応機能を高めるような療育をすることが大事ということですよね。ですからそういう意味で言えば、知的発達症の程度の改善っていうのは、そのお子さんが必要としている支援をしっかり整えて、実用的なスキルや、社会的なスキルを身につけるように支援することを通して達成できる可能性があります。
そうなんですね。よくご家族で、医師に「知的障害だからもう治らないよ。」と言われた、という方も結構いらっしゃるんですよね。すでに様々なスキルが発達していて習得していたとしても、「もうこの子は成長しないんだ。」とお考えのご家族もいらっしゃいます。この情報は明るい未来を導くと思います。
知的発達症の診断がついていれば、診断自体がとれる可能性は少ないかもしれないけれど、その程度は変わりうるし、適応スキルが増えれば生活のしやすさも全然変わります。 知能テストは、(愛の)手帳を一回もらっているからそのままというのではなくて、今、どのような支援が必要か、今の環境はその子の支援ニーズに合っているかを知るためにも、発達の節目ごとに検査を行い、診断の見直しをするのは、大事かなと思います。
先生のおっしゃる発達の節目とは、どれぐらいのスパンを指しますか?
本当にそれはお子さんの成長もありますし、環境の変化もありますよね。
例えば、「小学校に入学した」などでしょうか?
はい、今後どういう支援が必要かというのをもっと具体的に検討するのは、特に環境の変わり目と言えるかもしれません。
本日は大変貴重なお話ありがとうございました。
本当に勉強になりました。
そうでしたらよかったです。ありがとうございます。