チルドレン・センター

ABA(応用行動分析学)で自閉症を療育

設立の思い

諦めずに教え続ける大切さ

ラマゾン君と出会ったのは、私が豪州シドニー大学に留学していた4年生の時だった。
ラマゾン君はその頃、私が在籍していた発達障がいの指導センター、「チルドレンズセンター(Children’s Center)」に来ていた。
小学2年生の彼は、家族とトルコからきた移民で、小さい頃から両手両足の不自由があり、難読症、自閉症を抱えていた。

センター内でラマゾン君の担当を希望する生徒は誰もいなかった。私はあまり考えずに手を挙げた。その瞬間、クラスで失笑が起こった。それもそのはず、よりにもよって、センター内で唯一の「外国人」で、英語もそれほど上手くなかった私が、難読症を持ち、重い障がいを複数抱える「問題児」の担当を希望したのだから。
ラマゾン君は体格の大きな男の子。着席ができず、気に入らないことがあるとすぐに叫び、物を投げつけた。初めて本を手渡すと、彼はその本を指の上でくるくると回した。私の課題はまず、「本は読むためのもの」と彼に教えることだった。

こうして悪戦苦闘の日々が始まった。でも私にとって、辛くはなかった。むしろラマゾン君に会えるのが、楽しみで仕方なかった。毎回どんなことなら楽しんでもらえるのか考えるのが、楽しかった。

2か月が経ち、何の指示にも従わなかったラマゾン君の着席時間が、少しずつ伸びていった。本も回さなくなっていた。そう、彼は間違いなく成長していたのだ。そしてある日、文字の「指おい」をしていた彼が、私のほうを見て笑うと言った。
‘I can read!’ 読める!と叫んだのだ。
ラマゾン君は立ち上がり、まるで野球選手がホームランを打ったかのように、何度も教室をぐるぐる走り回った。担当教授が涙を浮かべながら、私に声をかけてくれた。何が起こったのかよくわからなかった私は、その時初めて我に返った。そして彼に諦めずに教え続ける大切さを教えられたのだ。

ラマゾン君との関わりがきっかけで、彼のような子どもたちを助けたい、彼のような子どもたちと真剣に向き合いたい、と強く思うようになった。そして帰国後の2008年、「チルドレン・センター」を設立。子どもたち(チルドレン)が、人生の真ん中(センター)におかれ、大切にされるようにようにという想いを込めて。

プロフィール画像

松田 幸都枝(まつだ こずえ

認定行動分析士 (博士)(BCBA-D®
米国ニューヨーク州 行動分析士
チルドレン・センター 代表取締役
Pepperdine大学大学院 准教授

豪州シドニー大学教育学部初等科、特別支援学部卒業後、豪州、イギリス、オランダなどで特別支援および普通学級などで勤務。米国の大学院にて、博士(応用行動分析学)課程を修了。2008年、株式会社チルドレン・センターを設立。全従業員 国際資格保有。チルドレン・センターのスタッフとともに、日本、米国、およびアジア諸国にて、家庭や学校内でのABA指導およびスーパービジョンを務める。2016年より大田区の特別支援アドバイザー就任。2020年よりペッパーダイン大学大学院 心理学部の准教授として指導。著書に「小児科医に知ってほしい応用行動分析学(ABA)について」(小児内科/ 東京医学社)
、Culturally Tailored ABA: Treatments for Asian American Clients and Families. Multiculturalism and Diversity in Applied Behavior Analysis. Bridging Theory and Application (Routledge社) などがある。