「トラウマ」という言葉は、誰にでもイメージしやすい一方で、しばしば軽く使われすぎてしまう言葉でもあります。
実際、発達障害の分野でも「トラウマによって発達障害が起きる」と語る専門家がいます。
私はトラウマ臨床の専門家ではありませんが、行動分析学(ABA:Applied Behavior Analysis) の立場から、トラウマと発達障害の支援を考える機会を何度かいただいてきました。
その中には、アメリカ・デューク大学で心理学を教えておられた先生や、ニューヨーク州・マサチューセッツ州の臨床心理士・行動分析士の方々とともに行ったオンライン講演もあります。(米国の専門機関への講演)
世界で進む議論:「ABAは人道的か?」
ここ10年ほど、海外では「ABAは人道的なのか?」という議論が盛んです。
特に自閉症スペクトラム(ASD)の子どもたちへの支援の中で、「泣かせてでも行動を変える」古いABA手法への批判が強まっています。
実は、私がABAを学び始めた1980~90年代もまさにその時代で、指導中に何度も疑問を感じていました。「本当にこのやり方でいいのか?」とスーパーバイザーに尋ねるたびに、「このまま障害を持ったまま生きるのか、それとも教えるのか」と突き放されることもありました。
行動が減った、暴れなくなった――それだけで“成功”とされた時代。
でも、その方法が本当に子どもの成長に寄り添っていたのか?振り返ると、答えは「いいえ」と言わざるを得ないケースも多くありました。
いま、50代以上の米国の専門家たちは、自分たちが「良かれ」とおもってやってきた支援の方法を見直し、改める方が多数いらっしゃいます。
現代のABA:トラウマを生まない支援へ
今、ABAの教育現場は大きく変わっています。私が所属するアメリカの大学院でも、「言うことを聞かせるABA」は一切推奨されていません。
また、行動分析士(BCBA®)の倫理コードにも、「他の専門家と積極的に協力する(Collaborate with other professionals)」と明記されています。
つまり、他の専門分野と連携しながら“トラウマを生まないABA”を実践することが、現代のABAのスタンダードになっているのです。
チルドレン・センターの取り組み:安心と自立を育てるABA
私たちチルドレン・センターでは、数年前から支援方針を大きく変えました。
それは私の個人の感覚や経験ではなく、国内外の研究データに基づく“トラウマ配慮型ABA(Trauma-Informed ABA)” に指導方法を大きく転換させました。
子どもの行動の裏にある背景を理解し、「行動を直す」よりも「安心を育てる」ことを優先する。
その結果として、行動が自然に変化していく――。
そんな支援を、私たちは日々実践しています。
科学的にそして応用的にその人にとってベストな支援へ
- 「できるようにさせる」より「挑戦したくなる環境」をつくる
- 「問題行動」ではなく「その行動の理由」を排除する
- 他分野の専門家と協働し、支援を多面的に設計する
トラウマを生まないABAは、すでに世界の主流になりつつあります。日本でも、「やさしさ」と「科学」が共存する支援が広がっていくことを願っています。







