チルドレン・センター

ABA(応用行動分析学)で自閉症を療育

子どもに指示が通らない理由と改善した具体的な例

子どもに指示が通らない理由と改善した具体的な例

海外の学会に行くと、朝は長蛇の列から始まります。行動分析学の権威のある教授たちがコーヒーを買うためです。

まぁみなさん、並べません(笑)「1列で」という指示が通らないのです。なんとなく、団子状態になってレジの前まで移動し、そこでまた譲り合う(笑)そんな感じで日本でコーヒーを買う数倍の時間がかかります。

日本では保育園、幼稚園の頃から「指示がでる」ことを従順にこなすことを訓練されていくので、駅のホームでの整列が海外でニュースになったりします。

でも、ご存知のように日本でも「指示が通らない」子どもたちもいます。

保護者からは、「学校から指示を聞かないと、何度も電話がかかってくる」「家では問題ないが、園では集団活動ができないようだ」というご相談や、小学校、保育園の先生方からは、「Aさんは、本当に集団活動ができなくて」「Bさんに、何回いっても指示が通らない」といったご相談をされることがあります。

「子どもに指示が通らない」ということには、本当に様々な理由やケースがあります。

今回は、「子どもに指示が通らない」ことの中でも「学校での指示」に関して少しお話をします。

また、「学校での指示」については、ごく一部のお話なので、今後、機会がありましたら「学校」以外での記事も書いていければと思っております。

私たちチルドレン・センターは、これまで1000人以上の子どもたちを指導してきた知識と経験があります。(2020年現在)指導者は、ABA(応用行動分析学)の国際資格の協会認定行動分析士-博士®(BCBA-D®)、協会認定行動分析士®(BCBA®)、協会認定準行動分析士®(BCaBA®)、そして登録行動テクニシャン®(RBT®)を保有しております。​

なぜ子どもに指示が通らないのか(ABAの観点から)

発達障害(発達障がい)と指示が通らないことの関係性

小学校や保育園の先生方の中には、割とはっきり、「発達障害(発達障がい)があるから、指示がはいらないんですよね。はぁ・・・(ため息)」とおっしゃる方も、少なくありません。

お気持ちは大変よくわかります。毎日、指示を出す側としては、「あーまた君かー」とモヤモヤを感じている方もいるでしょう。

ABAを実践しているものとしての意見だけを申し上げます。

「指示が通らない=発達障害(発達障がい)」ではないですし、「自閉症(自閉症スペクトラム症)=指示が通らない」ということでもありません。

「指示が通らない」子どもたちが、万が一、そうした課題を持っていても、すんなりと集団活動ができていく場面があります。

「指示が通らない」子どもたちがいる学校の管理者は、「もっと大人の目があれば」「もっと支援の手があれば」、「指示を聞かせて、同じ行動をさせることができる」と信じて支援を入れている場合もあると思います。しかし、通常「指示が通らない」とされている子どもでも、避難訓練や、学芸会などの「本番」でできなかったケースは、個人的にはあまり聞いたことがありません。

指示がきちんと通る場合

それは、優れた指導スキルを持っている先生が担当するクラスです。担任の先生はおひとりで、集団行動を起こすスキルを持っていらっしゃるので支援員の方は、そこにはおりません。

指示が通るようになっていくのか?

皆さんの中には、「もう少し言語が理解で来たら」「もう少し大きくなったら」「指示が通るようになる」と思っている方もいるかもしれません。

実際に、小学3年生で、とんでもない行動を学校で日々重ねていた児童たちが小学5年生になり、「俺たち、やんちゃだったよな」とコメントしていました。

でも、この児童たちは、すでに小学3年生の「指示の入らない」段階から、学校と協力をし、ABAの介入計画を実施してきて「指示が入るようになった」からこそ、そのような呑気なコメントが言えるのだろうなと思います。

小学3年生から介入計画を実施した結果であり、当時から体格の良かった彼らに小学5年生からの対策はさらに困難だったと思います。

療育で指示が通るように改善することはできるのか?

「しっかりとした療育をすれば改善することができる」というのが答えになります。

ただ、私としては、この「しっかりとした療育」を「指示を通すだけのもの」として押し進めてしまうことを改善策としては推奨できません。そして「しっかりと」の部分を「厳しく」「身体拘束をつかって」「叱責を入れて」等と誤解をしてしまうと、今の教育の法律にも触れてしまいますし、何より子どもも指導者も危険です。

子どもに指示が通るようになった具体的な例と対応方法

具体的な例1(児童と先生方への支援について)

自分を省みる児童たち(「俺たち、やんちゃだったな」と述べた小学5年生の小学3年生の頃)のことを少し振り返って、例として挙げてみます。

この学校にお伺いしたときには、すでに保護者たちが廊下に数名「監視」にいらしていました。2つのクラスを拝見したのですが、先生方は、指導力の高い先生方でした。

ただクラスに複数名、診断がある児童や気になる行動をする児童がたくさんいたため、クラス全体に「指示が通らない」とのことでした。確かに、クラスの80%の児童が立ったり、歩いていたりしていました。

この例は、かなり昔の話で、その当時、私たちも集団での指示に関して「身体介入」や「叱責(こちらは学校関係者の)」なども介入として入れてしまっていましたが、それに加え、先生方には授業をすることだけに専念していただけるように支援をしました。

実際に、「Aくんも、Bくんも離席している」「廊下に脱走している」というような状況ではありました。しかし、本当にABAの介入が必要なのは1クラスに3名程度で、80%ではないはずなのです。

例えば、私たちがYouTubeを見るのを辞められないのは「継続して」ビデオが流れるからです。Wi-Fi等の不具合でクルクルと動画が止まったりしてしまうと、その間に違うことをすることがあると思います。(あーっキッチンにお茶でも入れに行こうかな。など)

授業も一緒です。

担任の先生が自分ではない誰かを叱責している間に、授業が中断していまい、やる気のあった児童は「あーっ」といって、おしゃべりや離席を始めてしまいます。やる気のある児童の気持ちを逸らさないためにも、先生には授業を止めないようにとお願いをしました。

すると、すぐにクラスの80%の児童は着席をし、授業に参加し始めました。その流れに乗らない3名の児童の行動は、それぞれ個別の指導計画を立てて、介入を一律にしました。

この学校の支援員の先生方も素晴らしく介入計画に沿って支援をいれてくださいました。

具体的な例2(先生から児童への指導について)

2つ目の例は、先生の行動です。

A先生は、熱心に講演なども参加してくださっていました。

お会いして3回目ぐらいのときに、A先生は私に「わかりました。叱らなくていいんですね。」とだけ言ってくれました。

正直、この時点では、「A先生にうまく意図が伝わっただろうか」「私の指導に落ち度があって誤解をさせたり、落ち込んでいたらどうしよう」とドキドキしていました。

A先生は「完璧な授業」をなさる先生で、4月の段階では、aさんも、bさんも、cさんもとレッドフラッグを立てていた先生です。学年も終わりになる2月に、再度、A先生のクラスの観察の機会をいただけました。

まず90%の児童の「発表したい!」という挙手が止まらない、あんなに書くという作業が苦手だった児童たちが、「メモ用紙をもっとくれ!」とお願いをしているし、離席が目立った児童でさえも、「せんせーこれでいいのー?」と、お尻が浮く前に、A先生が飛んできて承認をだす。

A先生は熱心に講演に参加しクラスにあった介入をすることで、私はちょっと嬉し涙がでるほど、A先生が実践したいクラスが成立していました。

具体的な例3(先生への支援について)

「教室から飛び出したりする児童はどうすればいいのか?安全面は?」「指示が通らない児童で暴れる場合は?」

本当にABAの介入計画を実践した方がいい児童がいることは確かです。でもそれは、必ずしも診断名や発達の凸凹があるからではないのです。

他の学校での「教室からの飛び出し児童」に関しては、安全面を十分に配慮した上で、機能分析を実施させていただきました。

これはその児童のデータではないのですが、簡易版でデータをとると、下記のようになります。

この児童の時も同様で、

  1. 指示
  2. 教室からとびだし
  3. 若いかっこいい支援員の先生が猛ダッシュで追いかけて捕まえて暴れる

上記の流れで毎日繰り広げられていました。ちなみにこの支援員の先生は、児童たちから人気があります。

介入をして改善するのか半信半疑な学校側(この時点では、本当に疑いしかなかったと思います)に、私たちからは介入を統一して、安全を守る最低限だけの行動をお願いしました。

すぐに担当の特別支援の先生からご報告があり、「離室は80%軽減した」と校内委員会でお伝えしてくださったようです。

まとめ

保育園や小学校などの集団の場面では、指示が通らない子どもや児童がいると、日本の先生方は本当にまじめなので、「なんとかしなきゃ」と様々な対策をとってくださいます。

それで成功すればそれはそれで素晴らしいです。

行動は環境によって変わります。行動分析学の権威のある教授たちが、コーヒーを買うために整列できなくても、「指示、通らないな、保護者にいうからな」という人はいないのです。

でもなんとなく、成功し切れていなかったり、違和感がある場合は、ABAという科学の手を借りることもできるという一つの提案です。

保護者や先生方が、悩んだり落ち込んでいるとしたら、応用行動分析学という科学がきっと力になると思います。

私たちチルドレン・センターは「指示が通らない」の療育について随時ご相談をお受けしております。お気軽にご相談・お問い合わせください。

この記事を書いた人

profile

松田 幸都枝(まつだ こずえ)

認定行動分析士 (博士)(BCBA-D®)​
米国ニューヨーク州 行動分析士
チルドレン・センター 代表取締役
Pepperdine大学大学院 准教授

豪州シドニー大学教育学部初等科、特別支援学部卒業後、豪州、イギリス、オランダなどで特別支援および普通学級などで勤務。米国の大学院にて、博士(応用行動分析学)課程を修了。2008年、株式会社チルドレン・センターを設立。全従業員 国際資格保有。チルドレン・センターのスタッフとともに、日本、米国、およびアジア諸国にて、家庭や学校内でのABA指導およびスーパービジョンを務める。2016年より大田区の特別支援アドバイザー就任。2020年よりペッパーダイン大学大学院 心理学部の准教授として指導。著書に「小児科医に知ってほしい応用行動分析学(ABA)について」(小児内科/ 東京医学社)
、Culturally Tailored ABA: Treatments for Asian American Clients and Families. Multiculturalism and Diversity in Applied Behavior Analysis. Bridging Theory and Application (Routledge社) などがある。

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