チルドレン・センター

ABA(応用行動分析学)で自閉症を療育

⼦どもが⽂句ばかり⾔う理由と発達障害(発達しょうがい)との関係:対応⽅法について

⼦どもが⽂句ばかり⾔う理由と発達障害(発達しょうがい)との関係:対応⽅法について

文句ばかり言う子供について保護者や先生からご相談を受けることがよくあります。

  • 「自閉スペクトラム症じゃないんですけど、文句を言うので扱いにくくて・・・」
  • 「発達障害(発達しょうがい)の診断名はないんですけど、ずっと文句ばかり言うのです」
  • 「一日中、文句ばかり言っていて、言うことを聞きません」
  • 「せっかく話せるようになったのに、文句ばっかり言っています」
  • 「学校で先生や友達に文句を言うようで、叱っても静かにならないと言われました」

今回は、子どもが文句ばかり言う理由や発達障害(発達しょうがい)との関係、文句ばかり言う時はどのような対応が望ましいかを具体的な例とともにお話しします。

私たちチルドレン・センターは、これまで1000人以上の子どもたちを指導してきた知識と経験があります。(2020年現在)指導者は、ABA(応用行動分析学)の国際資格の協会認定行動分析士-博士®(BCBA-D®)、協会認定行動分析士®(BCBA®)、協会認定準行動分析士®(BCaBA®)、そして登録行動テクニシャン®(RBT®)を保有しております。​

発達障害(発達しょうがい)だから文句ばかり言ってしまうのか(ABAの観点から)

ちょっと観点を整理するために、アニメで例を挙げてみましょう。

例えば、ちびまる子ちゃん。

子どもの登場人物のほぼ全員が、かなり文句をお互い言い合っています(たまちゃん以外)。特に主人公のまる子は、お母さんが鬼のように怒鳴ると、「へーい」という感じで言うことを聞き始めます。

これは、行動分析学でいうと「弱化」。文句を言うのが一時的に減ったことになります。

でも、もちろんまる子はまたすぐに文句を言います。「弱化」はそのような作用をします。

発達障害(発達しょうがい)という診断名があってもなくても、文句を言う子どもたちで、この弱化(叱責)で行動が一時的にでも減らない、または「ほかの子なら言うこと聞くのに、なんで?」と思う方もいると思います。

ここで言いたいのは、「発達障害(発達しょうがい)があるから文句を言うわけではない」ということです。

また、学校や園でとても元気なクラスにいるのに、発達障害(発達しょうがい)の診断名から、どうしてもその児童の行動が気になる先生方も時々いらっしゃいます。これは差別とかそういうことではなく、本当に「気になる文句」を児童が言うからです。

文句ばかり言うことには理由がある

ABAの指導をしているセンターなどでは、子どもが問題行動のある質問(文句など)をした場合に「計画的無視※1をすぐに進めるケースもあると思います。

※1 計画的無視とは問題行動を起こしている人を無視するのではなく、その特定行動だけを無視することです。

もちろん、その指導で子どもの文句がきちんと減っていっているのであれば、それはそれで良いのかなとも思います。ただ、その「計画的無視」が何を目標としているのか、果たして行動の機能として合っているのか(文句を言わなくなることで問題が解決しているのか)という点が少し気になります。

そんな時に、検討していただきたいころを挙げます。

例えば、減らしたい行動の機能がアテンション(注意を引くため)であれば、「計画的無視」はとても有効です。

ケンカしたい(本人がそうは思ってなくても)タイプがまさにそれです。

教室で、「屁理屈を言う」「なんだか扱いにくい」「提案しても文句を言う」などの場合、行動の機能がアテンションなので、計画的無視は効果的です。

でも、「勝ちたい」「〇〇は本当にしたくない」を「できれば〇〇をしないでいたい」という行動の場合には、計画的無視をしても本人の文句は減りません。

文句を言う理由には何が隠れているかを検討することが重要になります。

文句を言わない(言わせない)ことが正しいことなのか

家庭ではとても静かなのに学校では文句が止まらない。またはその逆のケースもあります。

例えば、ちびまる子ちゃんのお父さんはかなりな文句の達人です。

あのお父さんが保護者の場合、ちびまる子ちゃんの文句のワザが磨かれているのも当然です。

子どもたちは、発達の凸凹に関わらず保護者の模倣をします。

でも、ちびまる子ちゃんのアニメを見て「あの家は教育がなっていない」「しつけがなってないから、まるちゃんはああなんだ」と責める人はほとんどいないと思うのです。

まる子は学校の授業中こそ静かですが、相当な文句を言います。でもまる子はわざとしているわけではないのです。

だって、それはまる子の家では普通なのですから。したがって、そもそもの目標を検討するべきです。

ABAで最も重要な指導要素のひとつに「社会的妥当性」というのがあります。

ABAを受ける本人にとって、どうしてあげれば、本人が持つスキルをフルに生かして社会や園、家庭で生活ができるのかということです。

言語をようやく使い始めた子どもや、言語のスキルがあまり定着していない児童、行動でコミュニケーションを取ることが常である家庭環境や指導環境において「静かにさせる(文句を言わない)」ことを目標にしてしまって良いのかということも検討するべきだと思います。

文句ばかり言う子どもへの対応方法について

文句を言う子ども達の例をいくつか挙げます。

Mさん(年長の場合)

ABAの指導開始時は基本的なコミュニケーションの確立に少し時間を要したMさんは、普段はとてもおとなしい印象の女の子です。

Mさんは非常に頭脳明晰なお子さんなのですが、彼女が文句を言う場面には規則性がなく、内容も一切文脈を持たないもので周囲が困っていました。

例えば、新学期に整列していると「クリスマス!」と叫んでしまうことがありました。園のベテランの先生が「しっ!!」などと叱責をしても減ることはありませんでした。

保護者も他の専門家も、「何かクリスマスにトラウマがあるのでないか」「フラッシュバックではないのか」など様々な要因を検討をしましたが、思い当たることはなかったようです。

そこで、私たちはいくつかの方法で機能分析を取りました。

行動機能は大きく4つに分かれており、そのうちのひとつに回避というのがあります。

例えば、ざっくりとですが「難しい課題」「課題そのもの」「指示そのもの」「長い苦痛な時間」「生理的嫌悪」「特定の日」「人からの関心」(文脈やその人の環境や状況で変わります)から回避するために、行動を起こす頻度が多い場合、この行動は「回避の機能が高い」と測定、推測します。

Mさんは普通に園に通っていて、一見して「避けたいもの」があるようには見えないのですが、機能分析から「回避の機能」が高いことがわかりました。

また、同時に言語のレパートリーで「NO」を含むリクエストを出す場面が少ないことも機能分析のデータから分かりました。

ちびまる子ちゃんの場合には、おじいちゃんに「しつこいねー全く」「やだよ、あたしゃ」などと愚痴れるスキルが、Mさんにはまだ身についていなかったのです。

そこで、きちんと文句を言語で言ってもらうことを指導しました。同時に文脈が合っていない言語もありましたが、こちらには介入を入れないでもらいました。

この代替行動はMさんには有効でした。

今では、「ちょっと違うなー」と自分が感じたことは、きちんと言語で伝えることができています。また、「自分はこうしたいんだ!」ということ、「100歩譲ってこれならする!」など、かなり進んだコミュニケーションをRBT(登録行動テクニシャン)とはもちろん、保護者、家族、学校でもとれるようになりました。

Tくん(小学生の場合)

明るく元気なTくんは、文句というよりも「なんで?」「どうして?」が遅く出始めたタイプのお子さんでした。ABAの指導開始時は、指導でも家庭でも大きな問題行動はないものの、少しづつ日常が難しくなっていくような行動が多く見られたお子さんです。

小学生になり素晴らしい発達をしたのですが、RBT(登録行動テクニシャン)が指示を出すと「どうして」「先生、できない」など、1回1回、文句を言うようになりました。

Tくんの機能分析を取ると上記のグラフのような結果になり、アテンション(Attention)と回避(Escape)が同点でした。

この「アテンション」と「回避」が同点の場合、教科書通りの指導だと、アテンションには、アテンションの、回避には、回避のための介入計画が必要になります。米国では、これがすべて厳密に記録されていないと、保険の申請ができません。しかし、近年の研究では、行動の中に複雑な機能がある場合、分けては介入できないのではないか、という意見も多く出ています。

私たちは、Tくんの生活習慣や関わりのパターンから、まずはアテンションから介入をいれてみようということになりました。

学校の先生は皆さん理想が高く、とても素敵な先生が多い(ちびまる子ちゃんの担任先生もとても素敵ですよね)ので、このアテンションの介入は先生方にとって、かなりなジレンマになるケースがあります。

私たちも心苦しい思いがありましたが、先生方には「授業のメインの内容以外の質問は、聞き流してください」というお願いをしました。

アテンションの介入をいれることで、Tくんの質問攻撃が1時間目には34回から4時間目には10回程度になり、クラスがぐっと静かに、そして集中できる環境になったことで先生方もこの介入の結果を体感してくださったようでした。

そして最も大切なのはTくん自身のことですが、介入を入れることで授業や課題に熱心に取り組むようになりました。

今では日常が難しくなっていくような行動は皆無になりました。

Iさん(小学生の場合)

Iさんは、文句とともに手も出てしまうタイプでした。

幼稚園の頃は今よりも問題行動が多かったようです。特に園では、すぐに「タイムアウト」という意味で、力づくで連行、叱責、身体拘束ということが続いていました。

ABAの指導開始時は、手しか出なかったので、指導をしてちゃんと「文句」を言ってもらうにようにしました。

その成果で、他害そのものは劇的に軽減しました。

しかし、今度は「ちょっと文脈にあわない」「明らかに人を不快にさせる暴言」ともいえる文句を言うようになりました。

Iさんはすでに社交面、言語のスキルもあるので再度データを取り直し、Iさんを取り巻く環境を再整備することになりました。

アセスメントの結果判明したことは、同じ文句をいう行動でも時間と人によって行動の機能が違うということでした。

まず、Iさんに対しての指導は、徹底的に真摯に話を聞くという一見当然なことを、入室の1秒目から実施することにしました。

この児童だけではないのですが、問題行動への介入として最も大切なのは、先行条件介入です。つまり、「問題行動が起きる前に、周囲が何ができるか」です。

アテンションにはアテンションの対応、回避には回避の対応を入れていくことで、初めての大人に会っても「ちょっと何を言っているのかわからないですけど」というような感じは一切なくなりました。

「へぇ〜ABAでもなんとなくカウンセリングみたいなことするんだね」と、思う人もいるかもしれません。これはカウンセリングではなく、問題行動を軽減するための介入として実施します。

まとめ

文句ばかり言ってしまう子供は発達障害のあり、なしは関係ありません。環境や状況に理由があり、文句を言うことは他のことの表現である場合もあるでしょう。

文句を言う環境や状況を鑑みて、何のための文句なのか、誰に対しての文句なのかを見極め、正しく対応していくことが「社会的妥当性」を身につける一歩になると思います。

私たちチルドレン・センターは随時ご相談をお受けしております。お気軽にご相談・お問い合わせください。

この記事を書いた人

profile

松田 幸都枝(まつだ こずえ)

認定行動分析士 (博士)(BCBA-D®)​
米国ニューヨーク州 行動分析士
チルドレン・センター 代表取締役
Pepperdine大学大学院 准教授

豪州シドニー大学教育学部初等科、特別支援学部卒業後、豪州、イギリス、オランダなどで特別支援および普通学級などで勤務。米国の大学院にて、博士(応用行動分析学)課程を修了。2008年、株式会社チルドレン・センターを設立。全従業員 国際資格保有。チルドレン・センターのスタッフとともに、日本、米国、およびアジア諸国にて、家庭や学校内でのABA指導およびスーパービジョンを務める。2016年より大田区の特別支援アドバイザー就任。2020年よりペッパーダイン大学大学院 心理学部の准教授として指導。著書に「小児科医に知ってほしい応用行動分析学(ABA)について」(小児内科/ 東京医学社)
、Culturally Tailored ABA: Treatments for Asian American Clients and Families. Multiculturalism and Diversity in Applied Behavior Analysis. Bridging Theory and Application (Routledge社) などがある。

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